妊娠すると、赤ちゃんが無事に元気に育ってほしいと誰しも願うことですよね。しかし、残念ながら流産の確率は全妊娠の約15%であり、誰しも流産になる可能性があると言えます。ここでは、そんな流産についての定義から症状や分類、治療法、流産後の妊活の再開時期や体験談についてお話していきたいと思います。
目次
Ⅰ.流産の定義と確率
流産とは、妊娠22週未満の妊娠の中断のことをいいます。
妊娠12週未満の流産を早期流産、12週以降22週未満までを後期流産とよびます。
流産の確率は一般的に全妊娠の約15%であり、そのうちの80%が早期流産です。
しかし、母体の加齢とともに発生頻度は高くなり、特に40歳以上では流産率は25%にもなります。
Ⅱ.流産の原因
流産の原因には胎児側によるものと母体側によるものがあります。自然流産(自然に妊娠の中断に至ったもの)のうち50~60%は胎児側の異常によると報告されています。
原因については以下の表をご覧下さい。
胎児側 因子 |
染色体異常 | トリソミー、モノソミー、三倍体など |
---|---|---|
先天形態異常 | ||
遺伝的異常 | ||
胎児付属物の異常 | 臍帯、胎盤の異常 | |
母体側 因子 |
子宮形態異常 | 子宮奇形、子宮筋腫、頸管無力症、陳旧性頸管裂傷 |
感染症 | 後期流産では上行性の絨毛膜羊膜炎は子宮口の開大、破水をおこし流産の一因となる | |
内分泌異常 | 甲状腺機能異常、副腎機能異常、糖尿病、黄体機能不全など | |
全身状態 | 高熱、著しい疲労、栄養障害、外傷など | |
免疫異常 | 自己免疫疾患など | |
その他 | 心・腎疾患、放射線被ばく、妊婦の年齢など |
早期流産の多くは、胎児側の因子によって起こり、その中では染色体異常が最も多いといわれています。
一方、後期流産の大部分は、頸管無力症や絨毛膜羊膜炎などの母体の異常により起こります。
Ⅲ.流産の主な2つの症状
流産の主な症状は、
- 下腹部痛
- 性器出血
です。通常は、流産が進行すると下腹部痛と性器出血が増強し、胎児および付属物が排出されると症状は軽減します。
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Ⅳ.流産の分類と治療法
まず、流産は以下のように、大きいくくりとして自然流産と人工流産の2つに分けられます。
自然流産 | 人工的な操作を加えることなく、自然に妊娠が中断されたもの。 |
---|---|
人工流産 | 人為的に妊娠を中断するもの。 |
以降の分類に関しては、自然流産についてお話していきます。
自然流産の中でも、さらに細かく以下のように分類されます。
①切迫流産
切迫流産とは、流産発生の危険がある状態で、流産する一歩出前の状態のことをいいます。胎児やその付属物は排出されておらず、子宮口も未開大です。
内診 | 子宮口未開大(子宮口は開いていない) |
---|---|
症状 | 少量の性器出血 軽度の下腹部痛 腹部の張り、腰痛 |
エコー検査 | 胎児(胎芽)、心拍を認める |
妊娠の継続 | 可能 |
治療 | 妊娠初期は有効な治療法がない 妊娠16週以降で子宮収縮がある場合は子宮収縮抑制剤の使用 |
②稽留流産
稽留流産とは、妊娠22週未満に胎児が死亡したにも関わらず、子宮内に停滞している状態をいいます。母体に自覚症状はない状態。
内診 | 子宮口未開大(子宮口は開いていない) |
---|---|
症状 | 無症状のことが多い (少量の出血を認めることはある) |
エコー検査 | 枯死卵(こしらん)を認める |
妊娠の継続 | 不可能 |
治療 | 子宮内容除去術 |
③進行流産
進行流産とは、胎児やその付属物はまだ子宮外に排出されていないが、子宮口が開大し、子宮からの出血も増加し、やがては胎児もその付属物も排出される状態(妊娠継続は不可能な状態)をいいます。
内診 | 子宮口開大(子宮口が開ている) |
---|---|
症状 | 性器出血 陣痛様下腹部痛 |
エコー検査 | 胎児(胎芽)を認めない または、胎児(胎芽)を認めても心拍がない |
妊娠の継続 | 不可能 |
治療 | 子宮内容除去術 |
④不全流産
不全流産とは、流産の際に、胎児および付属物が一部子宮内に残存している状態。
内診 | 子宮口開大(子宮口が開ている) |
---|---|
症状 | 性器出血、下腹部痛が持続 |
エコー検査 | 胎児(胎芽)を認めない または、胎児(胎芽)を認めても心拍がない |
妊娠の継続 | 不可能 |
治療 | 子宮内容除去術 |
⑤完全流産
完全流産とは、胎児とよび付属物が完全に子宮外に排出されてしまった状態をいいます。通常、子宮内容除去術は必要としません。
内診 | 子宮口閉鎖 |
---|---|
症状 | 今まであった性器出血や腹痛が軽減または消失する |
エコー検査 | 胎児(胎芽)を認めない 胎嚢の消失を認める |
妊娠の継続 | 不可能 |
治療 | 不要(自然に子宮収縮が起こり復古が進む) |
Ⅴ.子宮内容除去術ってどんな手術なの?
子宮内容除去術とは、自然流産(稽留流産、進行流産、不全流産)の治療として、子宮頚管を広げたうえで、胎児や胎盤、子宮内膜などを除去する手術のことをいいます。
子宮内容除去術は、基本的には前日から入院して手術当日に退院する場合(1泊2日)と、日帰り手術をする場合とがあります。どちらになるかは、病院や週数によっても異なります。
方法としては、あらかじめ(約1日~半日程前に)、下の図のように子宮頸管にラミナリアやラミセルと言う子宮頸管を広げるための棒のようなものを子宮頸管に挿入します。
- ラミナリアとは、
天然の海藻(ラミナリアジギタタ)を原料とする直径5㎜、長さ6㎝の円柱状の棒のことです。タンポンのように、水分を吸収してだんだんと膨らみます。 - ラミセルとは、
MgSO4(硫酸マグネシウム)を含んだ高分子素材で、ラミナリアと同じように水分を含むと膨らみます。
ラミナリアは天然素材で、ラミセルは人工の素材でできたものですが、用途は同じです。
手術は、麻酔をかけて行われます。
胎盤鉗子(たいばんかんし)といわれる細長いハサミのようなもので、子宮内の内容物(胎児や胎盤、内膜など)を子宮外に排出します。
実際に排出するのは5~10分程度で終了しますが、手術室に入ってから麻酔をかけるなどの準備なども合わせて考えると所要時間は約30分程度でしょう。
手術後はしばらく安静にしますが、その日のうちに退院可能です。
退院前には、必ずエコーと内診で子宮内に何も残っていないことと、出血の有無を確認して終了です。
【関連記事】流産の手術の流れやリスク、注意点、入院は必要?ラミナリアって何?
子宮内容除去術による合併症
子宮内容除去術は、慎重に行いますが、お腹を開けて見ながら行う手術とは違い、手探りで行う手術になります。そのため手術による操作により極々まれに合併症を起こすことがあります。
どのような合併症が起こる危険性があるかというと、
- 子宮穿孔、腸管損傷
十分注意して行いますが、妊娠している子宮は柔らかくなっているため子宮壁にもろい場
所があると胎盤鉗子などで子宮に穴をあけてしまい(穿孔)、腸管を傷つけてしまうことがあります。 - 頸管損傷
鉗子などで頸管を傷つけてしまう場合があります。 - 子宮内容遺残
全てかき出したつもりが、まだ子宮内に内容物の一部が残ってしまっていることがあります。 - 出血
子宮壁をかき出す際に出血し、出血が止まらないなどの場合があります。 - 感染
流産後は子宮内容物を早期に胎外に出す必要がありますが、これらが子宮内に残っていると感染や炎症を起こすことがあります。
などがあります。私自身も看護師として働く中で上記のような合併症が起こった患者さんは見たことがありませんが、絶対に起こらないともいいきれませんので、手術後に以下の症状があった場合は注意してください。
- 我慢できない程の腹痛が持続する
多少の腹痛はありますので心配いりません。 - 大量の出血がある
術後1~2週間程度は出血が続くことがあります。普段の生理を超えるような出血量がある、1~2週間経過しても出血量が減らない、2週間を超えても出血がある場合は注意しましょう。 - 熱がでる
感染が疑われます。 - 今までなかったのに、術後から貧血症状(ふらつき、動悸や息切れがする)がでてきた
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Ⅵ.流産後の過ごし方や生理・妊活再開はいつからできる?
子宮内容除去術後は、3日程度は自宅でゆっくりと過ごすことが望ましいですが、仕事がある方は難しい方もいると思います。その場合は、自分の体と相談しながら決して無理はしないようにしましょう。
また、お風呂は術後1週間は湯舟につかるのはやめておきましょう。(感染予防のため)シャワーは入ってもらっても大丈夫です。
その他にも、注意する点として、我慢できないような腹痛や発熱、大量の出血があった場合は必ず受診するようにしましょう。
流産後の生理は術後1~2ヵ月で再開すると言われています。2ヵ月以上たっても生理がこない場合は医師に相談してみましょう。
また、妊活再開は、少し幅がありますが術後1~3か月後に再開してもよいと言っている病院が多いようです。術後1週間程度で再受診があると思いますので、その際に診察をしてもらい、妊活再開はいつからしてもよいか医師に確認してみましょう。男性医師のため聞きにくいという方は、看護師や助産師に聞いてみるとよいでしょう。
Ⅶ.体験談
【36歳 A氏】
結婚して5年、なかなか子供ができないため病院で検査を行うと、子供ができにくい体のため、不妊治療が必要だと言われました。主人と相談した結果、不妊治療を始めましたがなかなか子供ができず、ついには体外受精をしなければいけなくなりました。しかし、体外受精をすると覚悟を決めた矢先に、まさかの自然と妊娠していることが発覚し、家族共々大喜びでした。
しかし、妊娠10週で流産していることがわかり、手術をすることになってしまいました。短期間で妊娠の喜びと流産のショックとで、天国と地獄を味わったような気分になり、気持ちがついていけず、しばらくは情緒不安定になってしまいました。一時は精神的に本当に辛い時期もありましたが、今は主人の支えもあって、なんとかまた不妊治療を再開し、前向きな気持ちで妊活に取り組んでいます。
【28歳 B氏】
一人目が2歳の時に、二人目がほしいと思って妊活をはじめましたが、3度流産をしています。4回目の妊娠の時は「またダメかもしれない」と弱気になってしまっていましたが、何とか無事元気に成長してくれて、元気な子を出産することができました。流産を繰り返していた時はとても辛く、二人目を諦めようかと思ったこともありましたが、今では元気に成長している息子を見て、あの時諦めなくて良かったと心から思います。
※上記の体験談は事実に基づき本人に了承を得たうえで掲載させていただいております。
流産は本当につらい経験です。私自身も流産を経験していますので、妊娠の喜びと、流産のショックな気持ちは本当によくわかります。特に、やっとの思いでできた待望の赤ちゃんが流産しているとわかった時は、立ち直れないくらい辛いかと思います。流産後は無理をせず、体と心をゆっくり休めてあげて下さいね。
Ⅷ.最後に
流産はとてもつらい出来事ですので、できることなら経験したくないものですが、残念ながら流産は珍しいことではないため、誰しもが経験するかもしれません。
流産のほとんどの原因は染色体異常など赤ちゃん側の原因であることが多く、防ぎようがないことです。あの時私が無理をしたからいけなかったのかななど、後悔をしたり、辛い気持ちで立ち直れないこともあるかもしれません。楽しみにしていた赤ちゃんがいなくなってしまったのですから、そういう気持ちになるのはおかしいことではありません。しかし、決して自分を責めることはしないでほしいと思います。
流産後は体も万全な状態ではないですし、ホルモンのバランスも崩れていたり、精神的にも辛い時期です。そのため、自分を責めてストレスを溜めてしまうと、余計にしんどくなってしまうかもしれませんので、なるべく体と心を休めてあげましょう。
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